「はっ……?」
いま、なんだかすごい言葉が聞こえたような気がしたんだけど
空耳かと思って彼を伺うように見た。
「…いや、なんでもねー」
ごまかすように視線を外され、やっぱり気のせいだったのかと思った。
でも横顔が少し赤くなってるような…気がしたんだけど
きっとそれは繁華街のネオンが移りこんでいるだけなんだろうと納得するしかなさそうだ。
きっと聞いても教えてくれない。
それに私もなんだか、幻聴だったのに顔が熱い。
「……なぁ、名前教えて」
「名前?」
「聞こうと思ってずっと聞いてなかったし」
あ、そっか。
名前もまだ名乗ってないんだった、私たち。
「菱川麻由です。高校2年です」
改めて名乗るとちょっと恥ずかしくなって小さい声になってしまう。
「麻由、ね。やっと聞けた。同い年だったんだ」
嬉しそうに微笑む彼にさらに恥ずかしさが増して顔が赤くなる。
同い年か。先輩かもしれないって思ってたから、ちょっと安心。
というかいきなり名前で呼ばれるなんて、もう心臓がもたないかも…
「えと、あなたの名前は…」
「藤崎隼人」
「ふ、藤崎さん」
「藤崎さん…?」と彼はちょっと眉をひそめる。
「なんで苗字?」
「さすがにいきなり名前は呼べないです」
「駄目」
「だめ!?」
「苗字はいやだ」
「えぇーー…」
いやだって…
そんな子供っぽい言葉が返ってくるとは意外すぎた。
ふてくされたような横顔がなんだかかわいかった。


