少し怒ったような口調。
やっぱりなんだか機嫌が悪い…。
「あの…バイトが、今日はたまたまこんな時間になってしまったんです。ここ帰り道なので」
「バイト…?こんな時間まで?」
怪訝そうに形のいい眉をひそめる彼に、私は必死に頷く。
「はい、すぐ近くのお茶屋さんなんですけど…」
「お茶屋…」
「あったっけ?」というような渋い顔で腕組みをする彼。
「いつもこんな時間までやってるわけじゃねえだろ?」
「はい。この時間に終わったのは今日が初めてです」
これからしばらくは遅くなりそうだけど、それは今言うとややこしくなりそうだから黙っておく。
「…あのさ、この1週間、ここ通らなかっただろ」
「…!」
彼の言葉にどきっと心臓がはねる。
「…はい」
「なんで?」
「それは……」
言おうとして彼の顔を見ると、予想外に真剣な顔をしていて言葉に詰まる。
なかなか喋らない私に痺れを切らしたように、彼はぐいっと私の腕を掴んで引き寄せた。
「……わっ!?」
ぼすっと勢いよく彼の胸に倒れ込んだあと、パッと見上げると思ったより近くにある彼の端正な顔に、顔がボッと熱くなる。
ち、ちちち近…っ
「あっあの……!?」
「なんで来なかった?」
私の言葉を遮ってもう一度聞く彼の声は、ちょっと焦ったみたいに聞こえて
私は綺麗な黒い瞳から目が離せなくなる。
「もしかして、俺に会うのが嫌だった?」
「……え…」
いきなりでた言葉に私はきょとんと目を丸くする。


