なんで…?
頭の中はその疑問詞でいっぱい。
この声には聞き覚えがある。
彼に触れている部分から伝わる温度。
抱きしめられてる状況にも、彼が今ここにいることにも
なにもかもがうまく把握できなくてさっきとはまた別の意味でパニックになる。
「…大丈夫か?」
さっきの怒気を含んだものとは全く変わって、柔らかくささやかれた声にゆっくり顔を上げると、
1週間ぶりに見た彼が、少し不機嫌そうな顔で私を見つめていた。
「な……なんで、ここに…」
今日は来てないと思ったのに。
驚きもあるけど、それ以上に嬉しさが勝ってまた涙が出そうになる。
固まっている私に、彼は相変わらず不機嫌な顔のまま、ぐいっと手を引いて歩き出した。
「えっ、ちょっと…あのっ」
「いいからとりあえず来い」
ど、どこに!?
彼はそれ以上何も言わず言わせず、私の腕を引いてずんずん歩き出す。
大通りから外れた道脇に入ると、そこでようやく立ち止まった。
「あの…?」
この状況に頭が追いつかなくて私はおどおどするばかり。
だってこの人なんかすごく機嫌が悪そう…な、ような…?
彼がゆっくり口を開く。
「なんでこんな時間に、1人でうろついてんだよ」


