轍は霧雨さんに声をかけているみたいだけど、顔は膝に埋めたまま、動かない。
「……霧雨、事情は後で聞くから、な?」
そう言う轍は、何故か悲しそうだった。
霧雨さんは立ち上がって、いつもより暗い表情で俯いていた。
雰囲気を暗くしてほしくないとか、そんな訳じゃないけど……。霧雨さんには、早く元気になってほしい。
「……声が聞こえないね」
「ああ、……もしかしたら、退場にひっかかったやつがいないんじゃねぇの?」
そうだったらいいな、と思いながらドアに近づく。しばらく沈黙が流れて、時計の秒針が空気と一体になる。そして、
心の中で流れる──短いカウントダウン。
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