「……ふぅ」
片手に銀色のフルートを持ち、一呼吸。
フェンス越しに見える情景は、毎日のように変わる。
それを見るのが楽しいし、屋上には誰もいない。
中学はテニスをしていたけれど、体育が苦手だったのが仇となり、結局、やめることになってしまった。
高校生になり吹奏楽部に入って、何とかやっていけている状態。
まあ、体験入部のときに、唯一フルートが吹けただけでも良しとしよう。
足を肩幅ぐらいに開いて、私はフルートを持った。
冷えた銀の笛に、そっと下唇を当てる。
歌口に向かって息を吹き込もうとした、その時だった。



