震える唇をぐっと噛み締めて、悠真は私たちに背を向けた。 「悠真……?」 私が気になって行こうとすると、「来んな!!」と怒鳴られてしまった。 その直後、地面にぽつりと、一つのシミができる。 やがてそれが、自分のものだと気付いたとき。 悠真は一度だけ、振り返った。 「……もう、やめてくれ」 震えた声。拳のほどけた手。弱々しい笑みが、月明かりで照らされる。 月の光が差し込む暗い武道館。 ドアノブも握らず、ドアも押さず。 彼はドアを"すり抜ける"と、 足音も立てずに、消えてしまった。