私はきっと、お母さんと離れることもなかったと思う。
あの時、何かが変わっていたら。
私は誰かに対して「それは嫌だ」とか、「やめてほしい」とか、もっと───素直に言えるようになっていたかもしれない。
苦しいことは吐き出したくて、でも、それでもっと苦しくなることを恐れて。
それがずっと、今まで、私を縛っていた。
「怖かったんだよね……」
自分の言葉を信じてくれないこと。
言えなくなること。
自分の言葉が掻き消されること。
捨てられてしまうこと。
シオミさんは、壁に沿いながら立ち上がって、頷いた。
「信じて……くれるの?」



