「……はいっ!」
私は泣きながら言うと、駆け出して、その場を離れた。
どうしてか、もう霧はほとんど消えていて。出口も、遠くからでもわかった。
───ドアが、ある。
遅れて聞こえる足音は、何かを躊躇っているように、途絶えて聞こえてくる。
ドアまで辿り着くと、一度だけ、後ろを振り返る。明らかにさっきとは違う形相。
どこを見ているのかすら分からない虚ろな目、老けた顔。
「夏仍っ!早くっ!!」
階段の上から私を見つけた朱美の声が、ドアを挟んでも遠くにいるのに、はっきりと聞こえてきた。
……ありがとう、先生───



