カッと見開いた瞳だけが、深い霧の中で大きく光って見えた。 ……体育専門の先生──重野(しげの)先生。 力は私の何倍も、何十倍も強い。 その上、足も速いし何でもできる先生だった。こんなの……敵わない。 「か……はっ」 ガァンガァンと、何度も頭を痛みが襲う。 酸欠の時に体験したような、気の遠くなるような、感覚。 ああ……もう、駄目だ。 最後まで、本当に、私は──── 諦めかけていたその時、だった。 「逃げ……なさい、夏仍さん……」