家の前の道に車が止まる。
シートベルトを外して、ドアを開けようとすると、お父さんが私の腕を掴んだ。
反射的に、私は振り向く。
「夏仍から別れの言葉を言ってきなさい。お父さんが行っても、良いことはないから」
「うん」と頷くと、お父さんの手をほどいて、車から降りる。
スタッ、スタッ。
地面を踏みしめて、確実に前に進む。靴の底が冷たい。手は震えている。
握りこぶしを作って誤魔化して。それでも、震えは止まらない。
「大丈夫。大丈夫、大丈夫……」
ひとりでに呟いて、私は目の前まで迫っていたドアを開いた。
いつもよりも、ずっと重く感じた。



