「ちょっ桜落ち着けって…」

「どうして落ち着いていられるのよ!」

ついに涙がでた。そして平助くんを睨みつける。

平助くんは言葉に詰まり、目を逸らす

原田さんや永倉さん沖田先生は呆然としている。

斎藤さんは、静かにこちらを見据えている。

「なんなの!口を開けば間者間者間者!!うるさいってのよ!違うって言ってるでしょ!
そして次はこう言うんでしょうね!ならば未来から来た証拠をあげろって! そんなのこの格好が証拠よ!このサックスが証拠!!この時代にはないでしょう?! これでも信じてもらえないならもう私のことを斬って! 殺してよ! どうせここも出してもらえないんでしょう?!私、もともと新撰組大好きだったのに!主役にはなれなくても立派に幕末の脇役として戦い抜いたあなた達が大好きで!憧れて!その一人一人の生き様に惚れて!!だから沖田先生に声かけてもらった時すごく嬉しくて!本来なら絶対に会えることのない想い人に会えて!!なのに…疑われ続けるのがこんなに辛いなんて思わなかった…私だって…いつの間にかこんなとこにいてわけわかんないのに…それでもいつかは帰れるかもしれないからそれならこのサックスでお金稼いでその時まで慎ましく生きてこうと思ったの…人には人の乳酸菌があるみたいに、私には私の事情があるのよ!なのになんでこんな目に…もうやめてよ!私があなた達に何をしたっていうの!」

はぁはぁ…

言ってやった。ぶつけてやった。

皆驚いた顔をしてる。
でもこんな感情をぶつけてしまえば確実に斬られるだろう。

だってただの八つ当たりだもん
あーあ。本当の不幸な死をとげるってこういうことなんだろうな。

なぜか意識が飛びそう。
いきなり興奮したからかな…

私はどこのおばあ…ちゃ、ん……ょ……

ここで意識はなくなった。

幹部side

桜は罵声を俺たちに浴びせた後、緊張の糸が切れたのか倒れた。

土「あ!おいしっかりしろ!!」

近「山崎くん!すぐに手当てを!」

山「御意!」

山崎が天井から降りてきて桜を医務室に運ぶ。

平「お、俺もいくっ…」

沖「平助はここにいて。僕が行くから。」

平助はその場に座り、沖田が山崎を追いかける。


原「…俺たちのせいだよな」

原田が沈黙を破った。

永「ああ…。あんなか弱そうな女の子のこと疑ってしまって。そりゃ本当のこと言ってるのに信じてもらえなきゃあんなになるわ」

土「大人気なかったな…」

近「あの子が言ってることは全て本当だろう。…未来から来たというのも。」

斎「…たぶんあの子は始め無理に明るく振舞っていたのだろう。ずっと見ていたがたまに表情が歪む時があったからな…」

平「…桜を連れて来た時、あいつすごく優しく笑ったんだ。沖田さんを見て泣いてもいたけど…
で、俺があいつの荷物もったら、それ平助くんのさりげない優しさ?って聞いてきて…
あいつ…全然悪い奴じゃないってそん時思ったのに…俺、なんも出来なかった…」

土「…とりあえずあいつが起きたら謝ろう。」

そうだな。みんながうなづいた。

沖田side

僕は女の人が嫌いだ。媚び売ってきて。くねくねして気持ち悪い。

だから最初桜を見たときも取り締まらなきゃいけない反面めんどくさいやつには関わりたくないと思ってた。

そしたら案の定変なやつでいきなり泣き出すし。
僕のこと、あったこともないのに先生とか言ってくるし。

とにかくこの子はめんどくさいから嫌いだと思った。

だから平助に全部任せて先に帰った。

あいつが帰ってきたらその途端また沖田先生とかいうし。

なにを勘違いしてるんだろう。
この子は。綺麗な子だとは思ったが、所詮女だ。と、土方さんの前にさしだした。

その後も桜は明るく振舞っていた。
でもそれが偽りだってことにすぐ気付いた。

隣にいたから震えてるのが見えたのだ。

あいつが笑いかけてきた時、その表情が大人びていて綺麗で目を逸らしてしまった。

そしたら一瞬傷ついた顔をしたのがわかった。
でもすぐ明るい調子になってまた話し出す。

いらいらした。

なんでそんな風にしてるのか。

でも同時に気になってもいた。

あの強さはどこから来るのか。


でも、未来から来たと言った桜に土方さんが食ってかかった時、桜は爆発したのがわかった。

ペラペラと僕たちに浴びせる罵声。

そして、僕達の生き様に惚れたと言った時の桜の瞳。

嘘は言ってなかった。

僕を想い人とか言ったのには驚いたけど、その後の罵倒もすごくて圧倒されていた。

そしたら倒れた。

僕は女なんてどうなろうと関係ないけど、彼女の事情を知らなかったとはいえ無視してここに連れてきたのは僕だ。

側にはついててやろうと思ったので、平助を止めて僕がきた。

彼女は山崎に布団に寝かせられ、眠っている。

長いまつげが濡れて月の光に照らされキラキラと光っている。

…別にドキッとなんかしないけど。

その時彼女が ごめんなさいと呟いた。

寝言か… 何に対して謝っているんだろう。 謝らなきゃいけないのは僕達の方なのに。

…僕は彼女に惹かれ始めていた。

桜side

んんっ…

目が覚めた。

どこだろここ。 私の部屋ではないな。

ああそうだ。私、幕末に来ちゃったんだった。

そして皆んなに暴言を……

暴言!!!!!


やばい!私っ!あの時なんて言った?!やばいやばいやばい!我を忘れたとはいえあんなこと…

でもまだ生きてる…

そっと体を起こすと、隣に沖田先生が寝ていた。

ズザザザっと勢いよく後ずさり、壁に激突する。

と、その音に気付いた沖田先生が起きた。

ごめん。おやじギャグを言うつもりはなかった。

やばいと思った私は急いで布団をかぶり寝たふりをする。

沖田さんが私を見て言った。

「まだ、寝てるのか…。
それにしてもすごい寝相だな」

ふぁあ…とあくびをする。

心の中でんなわけあるか!とつっこみながら、ばれてないことにホッとする。


すると、

「……そんなわけないじゃん。起きてるんでしょ?」

うっ…バレてる……

それに声がものすごく低い…
泣きそう。

目だけを布団から出して見ると、すぐそばに沖田先生が立っていた。

「…!!!」

沖田先生が赤くなって目を逸らした。

なに。そんな顔もするんだ。

「あのっ。沖田先生……」

すると襖が開いて、土方さんと他の幹部の方が入ってきた。

皆テンションが低い。

そして私の周りに座る

布団で頭までを隠す。

やばいやばいこれは怒ってらっしゃる。私が昨日あんなこと言ったからきっと締めにきたんだ。

ううーっでも私が悪いわけだし…

覚悟を決めて布団から目だけを出す。

覚悟を決めてそれかい!

「あのっ… 皆さんすみませんでした…」

小さくつぶやき、また布団で頭まで隠す。

「はあ?」

土方さんが低く言った。

だからすみませんってばぁあ!!

「なんでお前が謝るんだよ。
…俺らの方こそ悪かった。あんなに爆発するとは思わなくてな。」

身を構えていたのに、土方さんが言った言葉は優しいものだった。

「えっ?」

近「すまなかった。事情を知らないとはいえこんな女の子を男数人で尋問するとは大人気なかった。」

「近藤さん…」

やばい。なんか謝られてる。
怒鳴り散らした上に、謝らせるなんてなんて罪深いんだ私は…。

平「桜ごめんなっ!俺、桜は悪い奴ではないって屯所まで行きながら思ったのに…なんも助けてやれなくて…」

「平助くん…」

うへぁあー平助くんにまで気を使わせるなんて…

しかもこの後原田さんや永倉さん、斎藤さんも謝ってくれた。

かなり申し訳ない気持ちになった。

「あの…皆さんすみません。
私の方こそ、怪しいのは私なのに逆ギレして皆さんに罵声を浴びせた挙句、謝らせてしまって。」

すると、近藤さんが口を開いた。

「…じゃあどちらにも非はあったということで仲直りしようじゃないか。なぁ桜。」

「み、皆さんが…それで許してくださるなら…」

近藤さんが皆んなを見渡すと、皆頷いてくれた。

「というわけだ。よし、こんな湿っぽい話は終わりにしよう。ところで桜。」

「なんですか?」

だいぶ心が落ち着いた私は普通に応えることができた。

「君は未来から来たと言っていたが、この時代に行くあてはあるのか?」

「行くあて、ですか…。えっと…あ、ります…」

うそだ。あるわけない。でも近藤さんは今にもここに住みなさいと言いださんばかりの言い方だ。

これ以上迷惑をかけたくない。

「嘘をつけ。じゃあ一体どこだと言うんだ?」

土方さんが言った。

「…あっちの、すごく長い階段を上がったとこ。」


とりあえず私がここに来た時の神社をいう。

「そこには神社しかないが?」

土方さんが言った。

うぐぐ… 強い

「…住めなくはないですよね?」

「そうだけど、こんな可愛い子をそんなとこで暮らさせるなんて、気がひけるなぁ」

原田さんが言った。

「てことは、行くあてはないってことだ。」

永倉さんが続く。

この流れは…

「ここに住みなさい!」

はい。きました。さすが近藤さん。お優しい。子猫とか拾って来ちゃうタイプね、はいはい。

でもそうしてもらうと正直ありがたい。

「正直そうしてもらうとありがたいですが、ここ女人禁制ですよね?」

「君は特別だ。安心してここにいなさい。」

近藤さんは広い心を持ってるなあ。
そんだけ広ければジャガイモの栽培でもできそうだ。

でも鬼の土方さんもいるからな…
ベランダで作る家庭菜園のプランター並みのこころしか持ってなさそうな…

チラッと土方さんの方を見ると

「まぁ…いたければいればいい」

と言ってくれた。

「じゃあ…お言葉に甘えて。」

「ほんと!?やったあ!俺、桜といたいなって思ったんだ!」

平助が抱きついてきた。

「ぐへ!」

後ろに倒れる。

こいつは男だけど可愛いので焦りはしない。

「平助くん!私もよ!」

と言って抱きつき返す。

「まあ私もってのは流れで言っただけだけど。」

というと、えーと口を尖らす。

可愛いなあ。

隙をついて平助くんを下にくるっとして、おでこをつけて言う。

「そんな可愛いことすると、襲っちゃうよ?」

にやっと笑う。

すると平助くんが顔を真っ赤にして
私から逃げた。

「ひひひひひひひ土方さん!桜が桜じゃない!」

「あははっ冗談だよお! そもそも襲い方わかんないし?」

「ほら、平助も桜も馬鹿なこと言ってねえで。飯にするぞ。」

土方さんが呆れながら言った。

「「はいっ」」

二人で返事する。

すると、今までずっと黙っていた沖田先生が口を開いた。

「というわけだし、これからよろしくね」

この人、私のこと嫌いじゃないのか?!
明らか鬱陶しそうにしてたのに!

「は、はい…沖田先生。」

するとふにゃっと笑って言った。

「その沖田先生って何なのさ。僕何かを教えた覚えはないよ?」

か、かわいいいいい!!!

なんで?!沖田先生私のことウザく思ってたんじゃないの?!

さすがマイペース。
きっとなんかいいことあったんだ。