椿はニコッと笑った。

断ってくれたのは正直助かる。

なんせそれがなくても忙しかったのだ。

「椿大好き!

「えええ?!突然なんや!

あははははと笑う二人。

すると野菊さんがやってきた。

「ほな桜。初お披露目やで!

ううっ!ついに…

「今日は新撰組の皆はんが来てはるんよ

私にコソッと耳打ちした。

「えっ?

「ハルはんも来てらしたで

ハルが?!

「野菊さん!私いってもいいですか?!

「もちろんや!ただ、新人っていうとくんやで?それだけでかわってくるからな

うわぁうわあ!ついにだよ!!

ハルびっくりするかなぁ…

話だけは毎日していたが、やはり久しぶりに合う気がしてならない。

「ここの部屋や。作法はわかるな?お偉いさん方からお酌するんやで?

「はい!

ほな行きぃ!野菊さんに背中を押され、私は障子を開いた。

「お初にお目にかかります。お八重と申しんす。どうかよろしゅう。

一ヶ月の成果を発揮できるよう努力する。

私が入った瞬間、ざわめきが起こった。

ハルside

入隊試験の日から俺の生活は一変した。

当番の日は飯を作り、朝から晩まで稽古に励む。

見回りも行った。

そこでわかったことが一つ。

新撰組は人斬り集団と呼ばれていたが、実際は捕縛が主だったということ。

人を殺したことないし、殺したくもない俺にとっては大助かりだ。

俺ははじめこそ剣の扱いができなかったが、今では平隊士並みの力はある。

ついこの前、沖田さんと一緒に真剣を見に行った。

「ハルは背が高いからねぇ…

なかなか俺にピッタリの長さがなく苦戦したが、最終的にオーダーメイドで作ってもらうことにした。

そんなこんなで一ヶ月も早々と過ぎ、

そしてついに初給料の日。

あまり多くはないが、桜に会いに行くには十分だろう。

すると土方さんが嬉しい提案をしてくれた。

「よし、今日は近藤さんの奢りでみんなで島原に飲みにいこう!

隊士達は湧き上がる、

「春の歓迎会もかねてな!遅くなって悪かったなハル

にッと笑う土方さん。

「いえいえそんな!開いてくれるだけで嬉しいです!

ただで行けるんだ!

じゃあなにか土産でも買ってってやるかな

「ハル!今日はたくさん飲もうな!

ドガっ

今俺に肩を組んできたのは八十八だ。

最初から意気投合したのもあり、今では一番の親友だ。

「ははっ!俺酒飲んだことねえよ

「はぁ?その年で?!ありえねえ!

八十八は大袈裟に驚いてみせる。

それがおかしくて

「ばーか

頭を叩きにッと笑った。

「…

「ん?どした?

不意に八十八が静かになる。

「あーもーお前ほんとやだ!なんでそんなかっこいいわけ?!

はあ?口を開いたと思えばなんだよ

「そういう八十八も顔面偏差値高すぎるってこと自覚してる?

なにしろ美男五人衆の一人だからな

「へんさち?

あ、まだ偏差値ってないのかな?

「とりあえずかっこいいってことだ。

説明はほどほどに話を終わらせる。

すると、

「ハルーー!!

藤堂さんの声がしてそちらを向く。

後ろには永倉さんと原田さんもいた。

「どうしたんですかー??

ドタドタと走ってこっちまできた藤堂さんは、

「くっそ!今日も相変わらずでけえな!しゃがめ!

と言った。

「はいはい。

俺は縁側に腰を下ろした。

その隣には八十八も座る。

「ははは!平助!しゃがませる方が惨めだろうよ!

腹田さんが笑いながら藤堂さんの頭を乱暴に撫でる。

「いいんだよ!俺より顔が下にあればそれでいい。

「大抵の人をしゃがませる気か

永倉さんもケラケラ笑う。

「もー!うるさい!で、ハル!

「はい?

切り替えが早いが、顔はまだ文句を言いたりなさそうだ。

「お前知ってるか? 角屋に最近めっちゃ美人な芸妓が入ったんだってよ!

角屋?というと、桜が行ったとこだ

「へえそうなんですか!その芸妓がどうかしたんですか?

「そいつがなかなか人前に顔を出さないらしい

原田さんもその噂を知っているようだ。

「人前に…

多分桜の事だな

毎晩話してたけど、相手は1日3人くらいしかさせてもらえないと言っていた、

それに桜かわいいし

「へえ〜そりゃどんな美女なのか気になります!ねぇハル!

八十八の声に我に帰る

「あ?ああーそうだなぁ

「あれー?あんま興味なし?

反応が薄かったのか永倉さんは口を尖らせる。

「いえいえ!すごく興味ありますよ! どれくらい出したら買えるのかなーって考えてただけです。

とっさに嘘をつく。

すると永倉さんはがははと笑って、

「値段自体はそんな高くねえんだ。なにしろ新人らしいからな。それなのに一度も夜を共にしたやつがいないってのも聞いたことがある。

「それほんとですかっ?!

まだ処女だ!

嬉しい調子で返事をしてしまう。

「あはは!なんだめっちゃ食いついてんじゃん!

藤堂さんが笑う。

「平助!そろそろ見回りの時間だ!

原田さんが言う。

「おーっと!そうだった!じゃあね!ハル!八十八!

三人は行ってしまった。

「なぁ八十八。

「ん?なんだ?

「街へ行かないか?

「街?良いけどなんで

「その芸妓に贈り物すんだよ

ははっと笑う。

八十八は一瞬キョトンとした後、

「あははは!まじかハル!本気で狙ってんじゃん! いいよ行こう!

爆笑しだした。

「このやろー俺が相手にされるわけないのにとか思ってんだろ

「え?全然そんなこと思ってなくないよ

「思ってんじゃねえか

脇腹を掴んでやった。

「あひゃっ!ちょ、おいそこはやめろよ〜

「いいぜ今はいくらでもそう思っとけ!すぐに後悔することになるけどな!

「すげえ自信…なんか不安になってきたわ

土方さんのところへと向かう、

「失礼しますハルです


「お?入れ

障子を開く。

「どうした?八十八も一緒じゃないか

「外出許可取りに来ました〜

「土方さん聞いてください!こいつ今噂の芸妓に贈り物買いに行くって言うんですよ!!

八十八が俺を指差しケラケラ笑う。

すると土方さんも

「ははは!そりゃ面白え!まず俺らの相手をしてくれるかってとこからだが、あんまし期待すんな

「いや、絶対相手してくれます!

俺はムッと口を尖らせて言う。

「期待すんなってのはそっちじゃねえよ。美人なって方だ。大抵そういうのは噂だけが先走るからなぁ

ケラケラと笑う土方さん。

「そうなんですか?! だってよハル!微妙だったらどうする!

はぁ。八十八も土方さんも、俺の味方はいないのか

「その芸妓は日本一綺麗だし、絶対相手してくれますー!!

俺は立ち上がる。

「そういうわけなんで土方さん。外出許可を

「ああ。行ってこい行ってこい

「やったなハル!行くぜ!

八十八も立ち上がり土方さんの部屋を後にした。

そして街へ

「うーん。どんなのにしようかな〜

ここらで一番品揃えが良いとされる店へ来た。

チリメンの簪や綺麗な彫刻が施された櫛などがある。

「八十八ならどれにする?

隣でこの店の看板猫とじゃれあっていた八十八に聞く。

「んー?俺ならこのにゃんこ!

自分の頬をすりすりして溺愛している。

イケメンだから許されるやつだな

「はぁ。八十八はあてになんねえな

また雑貨と睨めっこを始める。

すると、客の一人に声をかけられた。

「あ、あのっ

「ん?

視線をそちらへやると、中学生くらいの女の子。

なんだぁ?

「私っ、貴方に一目惚れしちゃいましたっ

顔を真っ赤にして手で頬を隠した。

またか…

実は最近見回りや、街へ行くたびに女に声をかけられる。

正直めんどくさい

「君

そう言うとハイっと顔を上げた。

「ごめんねぇ。そういうこといってくる人たくさんいるんだ。君もその中の一人に過ぎないから期待しないほうがいいよ

はじめはやんわり断っていたが、あまりにも多いもので今では適当だ。

「そ、そんなことありません!

まだ食い下がろうとするオンナを無視して

「じゃあね。俺、彼女に贈るやつ選んでるんだ。

彼女という部分をあえて協調させると、黙ってしまった。

「ハルひでえなぁ。女の子は優しく扱うもんだぜ?

「八十八うるさい。お前もこういうのは適当だろ

八十八もモテるし、俺と大して対応も変わらない

「ははは!

「よし、これにしよ。

俺が選んだのは桜の彫刻が施された櫛。

名前に名詞が入ってるとそういうの選んじゃうよね