「いただきます!

男の子は箸で真っ赤なトマトをとって一口食べた。

「! とってもおいしいです!他のも食べていいですか?!」

あげたのだから聞かなくてもいいのに

クスッと笑って

「いいよ」

と答えるともくもくと、けれど笑顔で食べ始めた。

はぁあ…ショタのもぐもぐほっぺ最高…

そんなショタの名前を聞いて居なかった。重要なのにうっかりだ。

私が名前を尋ねると、

「僕は沖田宗次郎です」

と言った。


沖田…?なんか新撰組にいたような…

なんとなくひっかかったが、私はそんなに詳しくないので、はっきりとはわからない。

とりあえず自分も名乗り、眼福眼福、と宗次郎が食べる様子を見学していた。

しかし、またもここでひとつきになることが。

先程から家の中から大人たちの声がする。
なのになぜこの子は一人なのだろう。

「ねえねえ宗次郎

ほっぺにたくさん詰めてハムスターのようになっている宗次郎を呼ぶと、口を動かしたまま、なんですか?とばかりに首をかしげた。

オーケーかわいい。

…じゃなくてだな、

「家の中に人いるようだけど、なんで宗次郎は一人なの?」

そう聞くと宗次郎は一旦口の中のものを飲み込んでから、

「…うん。ここは剣術を教えてるところなんだけど、僕はまだ剣を握らせて貰えないからなんとなくあの中には居づらいんだよね。

は、、

居づらいとかこの年の頃から気にしちゃうの?!

私なら普通に図々しく居座るけど!!

でも、

「それって、宗次郎は寂しくない?

こんなに小さいのに保護者がつかないなんて…

例えこの時代は早熟だとしても精神安定剤は必要じゃないかなあ〜

「うーん、まあ確かに早くあの輪に入れるようになりたいとは思いますけど、」

そこで言いよどんでしまう宗次郎。

やっぱり気まずいのかなあー

「それって、剣が上手くなれば輪に入れるってこと?」

「うーんなんというか、雑用を何年かこなして、そこから剣を握らせてもらうんですけど、。うーん。僕が師範代に剣の腕を認めてもらえれば少しは早く握らせて貰えるかもしれないです。」

ふむふむなるほどね!!

私はあることを思いついてニマーッと笑って宗次郎を見る。

「私が剣術の相手になってあげるよ!」

「へ?」

おそらく私がニマーッと笑った時からいい予感はしてなかったのだろう。引きつった顔がさらに引きつった。

宗次郎はうろたえながら、

「え、っでも、女の人はあまり剣を握らないし、」

へー?そういうもんなのか、

でもこれでも私、剣道では全国大会に出場とかしちゃってるからね!


「女でもやる人はやるの!さ、今日はもう帰ろうかな!明日またこの時間にくるからさ、竹刀、用意しといてよね

私は立ち上がりウインクする。

「あ、あとこれあげる。疲れた時食べな?

ショルダーバックからチョコを5粒ほど取り出し、宗次郎の手にのせる。

「なんですか?これ

「うーん、と甘味?かな。あーんして?

というと、素直に口を開ける宗次郎。

そこに袋から出したチョコを一粒放り込む

「舐めてみて

というと、宗次郎は口の中でコロコロ転がす。 ほっぺがチョコの形にでっぱっててかわいいを

「わあ、これ甘いですね!口の中で溶けます!

「そうそう!それがまた最高でねぇ
じゃ、私そろそろ本当に行くから。次会うときは友達だから敬語は外してくれて構わないよ!

そういってまた塀を超える。

すると、塀の向こうから

「宗次郎!すまんな一人にさせて…
一緒に食べてやりたいんだが、なにぶん皆が離してくれなくて…

「大丈夫ですよ。その気持ちが嬉しいです。それにさっき友達ができたんですよっ!

誰かとお話ししている。

なーんだちゃんと気にかけてくれる人いるんじゃん

安心した私は後ろ髪を引かれることなくまた街に繰り出した。

そして次、やることといえば新撰組の情報を集めること。

私は手当たり次第に街の人に新撰組について聞いて回った。

が、誰一人としてその存在をしらず…

おかしいなぁ…

私のタイムスリップ力は正確なはずなんだけど…

諦め掛けていた私は、最後に一人だけ聞いてそれでもダメなら現代に帰ることにした。

キョロキョロ見回すと、何かの箱を背負った若い男の人。

おっあの人、いかにも、そういうの知ってそう!

私はこれまでの人と同じように声をかける。

「すみませーん!伺いたいことがあるんですが…

すると男の人はこちらをちらりと一瞥し、

「…なんだ?

と、静かに言った。

おおっとっつきにくい人だった

それでも笑顔を絶やさず尋ねる。

「私今新撰組っていう集団を探してるんですけど、聞いたことないですか?

男は少し考えた後、

「ないな

と答えた。

やっぱダメかぁー….

「そうですか… 他の人にもいろいろ聞いたんですけどね…誰も知らないって。はぁー、ありがとうございました

私は一礼し、初めにきた神社を目指して歩き出す。

「おい!ちょっと待て!

一歩踏み出した時、男の人が私を呼び止めた。

「? なんです?

振り返り首を傾げる。

「…名はなんという?

「私ですか? 私は花泉桜です

「…そうか。俺は土方歳三だ。あんたのこと覚えておこう

土方?新撰組のメンバーにいたような…

そういえば宗次郎の名字も聞いたことがある。

親戚か何かとか?

それにしても覚えておくって…

「うひひっ!それはありがとうございます。また会えればいいですねぇ。私も覚えておきます。土方歳三さん

ニコッと笑い、会釈してまた歩き出す。

その後土方が、

「あの女ちゃんとすりゃ化けるな…

と呟き、目をつけていたのは桜は知らない

それから私は神社にたどり着き、来た時のように意識を集中させる。

だんだん意識がなくなり、完全にパタッと倒れた。


……うーん

目をさますとそこは来た時と同じで机に向かった状態でいた。

デジタル時計の日付を見ると、土曜日の午後3時。

土曜はお父さんは仕事だし、妹は部活。お母さんはそれについていくので、この時間まで部屋から出なくても誰も心配はしない。

なんか食べよっかな


私は自分の部屋を出て一階へ行き、冷蔵庫を探る。

卵と牛乳があったので、棚からホットケーキミックスを出し、おやつにすることにした。

分厚く焼いて、最後にメープルシロップをたっぷりかける。

うーん。我ながら美味しそうだ。

それをもぐもぐと食べ、また部屋に戻る。

パソコンの電源をつけ、土方歳三と検索する。

すると、びっくりするほどヒットし、調べていくうちにものすごい人物だったということが判明した。

おそるおそる沖田宗次郎を検索すると、こちらも大ヒット。

沖田総司の幼い頃の名前らしい。

そっか。新撰組は新撰組でも、まだ新撰組じゃない時に行っちゃったのか…

その後、いつの間にか帰ってきたお母さんと妹に晩御飯のお呼び出しを受けるまでずっと新撰組について調べていた。

明日も宗次郎んとこ行かなきゃ。

その夜私はすぐ眠りについた。

朝、起きると時間はもう10時。

うっそ!そんなに寝てた?!

昨日宗次郎と会ったのが多分11時半頃だから…

結構余裕っちゃ余裕かw

私は昨日はおろしていた髪を高いところで一つに結び、剣道をやっていた頃の袴と竹刀を装備して、また意識を集中させた。

行き先はもちろん昨日の神社。

スゥっとすぐに意識がなくなり、真っ暗になった。

目をさますとまたもやあの神社。

今度はブラブラなんてしないで、一直線に昨日の道場を目指す。

もちろんお気に入りのショルダーバックも一緒で、今日は中には柏餅を入れてきた。

江戸時代なら和菓子の方がいいだろうと思ったからだ。

塀に登る前に少し顔を出して宗次郎がいるか確認する。

宗次郎はすでにいて、手には竹刀を持っていた。

私に気付くと、パアッと笑顔になり、手を振った。

か、かわいいですぞ姫ぇ!!!

ばっと塀を越え、宗次郎のところへ行く。

「桜さん!待ってましたよ!

宗次郎は竹刀を振れることが嬉しいのかずっと笑顔だ。

「やっほー宗次郎!いい竹刀持ってるジャーン!

「桜さん、今日は袴なんですね!

「もー、敬語は外していいって言ったよね?あれ?言ったよね私。なのになんで敬語なの?私のこと嫌いなの?

あまり噛み合っていない会話の中で、そこが気になったのでちょっとうざめのキャラで指摘すると、

「はぁ、わかったよ。敬語は外す。

と、心底鬱陶しそうな表情でため息をつかれた。

「ありがと〜!よしよし、それでこそ友達だ!

「それよりはやくやろうよ

宗次郎は早くも竹刀を構えている。

「おっそうだね! いいよ、どっからでもかかってきな

私も竹刀を構えて答える。

「やぁあ!

宗次郎が刀を振り下ろしてくる。

しかし、身長の差というものがあるので…

「あははっ!宗次郎、面はねらえないね!

「うるさい! 他で倒してやる。

どんどん振り下ろされる竹刀を受け止め、流す。

楽しいねぇ

これがどう成長するのか…

30分ほど打ち込みは続き、さすがに宗次郎は息を切らしている。

「どーした宗次郎。もう終わりかぁ?

「くっ!まだまだやれるよ!

と言ってまた竹刀を構え、打ち込んでくるが最初より全く力が入っていない。

休ませた方がいいかなぁ?

「私が疲れちゃったからさ、休憩にしようよ

そういって、縁側に座る。

宗次郎も納得がいかない顔をしたものの、私の隣に座った。

そしてショルダーバックから柏餅を取り出す。