彼は、さも可笑しそうに笑いながらそんなことを言ってのけた。

本当に変な人。私は確認するように彼の顔を見上げた。 

「……死にたいんですか?」

「うん」

彼も止まったまま私から目線を外さない。私たちは見つめあっていた。

「や、やめてください。死にたいだなんて」

暫くして、先に我にかえった私は戸惑いながら言った。別に知らない人が死のうが知ったこっちゃないけど、目の前で死なれるのだけは勘弁だ。それこそやめてほしい。

「考え直しませんか?」

笑うだけで答えない彼に、私は根気強く話しかけた。

「ここで死んでも、多分あなたが虚しいだけです。誰も何も特をしません。……私が、困るだけです」

最後にこんな表現を加えたのは、自分のために言っているんだよ、ということを彼に分かってもらうため。救う気なんてさらさらない。後で目撃者として色々聞かれるのが面倒なだけだ。

彼はその意味合いを理解したらしく、少し考え込むとロープを下に投げた。

「それ、あげるよ」

私はロープを手にとって、上を見あげる。

「いりません、そんなことより、死ぬのをやめてください」

彼は誤魔化しが聞かないことを悟ると、子供が言い訳をするときのような気まずそうな顔をした。

「……そうだなぁ、明日も同じ時刻に、君がここに来てくれたら、考え直してみようかな?」

私はロープをぎゅっと握りしめ、星空を眺めた。

何か、変な人につかまっちゃった……。