こういうノリだから、今なら言えるかもしれない。

息を吸って、半ば叫ぶように口を開いた。

「やりすぎなのはそっちでしょ。樹だって勝手にいなくなったんだから。せっかく会えても何で消えたか教えてくれないし……これはその埋め合わせなの!」

言った。ついに言った。

樹はどんな反応をするだろう。怒る?それとも、笑って誤魔化す?

どっちにしろ絶対に聞き出してやる。

そう思い、ぐっと顔をあげた。

「いつ……」
「杏樹、どれ見たい?」
「は?」

あまりにも華麗なスルーっぷりに驚いて、私は唖然としながら目の前の彼を見つめた。

もしかして、聞こえてなかった?

「あのさ樹。私が言ったこと、聞いてた?」
「あぁ……その件については、また後日」

樹は少し考え込むように首をかしげると、にっこり笑ってそう言った。

「とりあえず今は映画が先だろ?どれ見たい?」

さっさと話題を切り替えて同じ質問を繰り返してきた。はぁ、こうなると何言っても無駄なんだよなぁ……。

私は樹尋問をそうそうに諦めて、並べられた映画のポスターを睨むように眺め、お目当てのものを探す。

お、あったあった。中央にブレザー制服を着た、モデル兼女優の伊沢リサちゃんが頬に手を当てるような格好で写っている。

その両隣には、全く印象の違う俳優さんが二人。正真正銘、三角関係ものの恋愛映画だ。

はぁ、リアルとの次元が違いすぎるよ……絶対三角関係とか無いもん。役とはいえ、リサちゃんが羨ましい。

あぁ、ジェラシー感じそう。

「……これにする。『トライアングル☆エモーション』」

気づけば私は、樹の態度からくる怒りと、伊沢リサちゃんへの嫉妬で膨れっ面になったまま映画のタイトルを口にしていたのだった。