「ふふふ、まずは映画ねー」

自分でもちょっとやり過ぎた感はあるけど、後悔ってほどじゃない。
まだへばっている樹を立たせると、大学の入り口に向かって引きずっていく。

「……お前、そういう意地の悪いところも変わってないな」

じっとりとした目で樹が睨んでくる。へへ、お陰さまで。こんなこと言えるのは樹だけだからね。

私は軽く微笑みながら樹の横に並んだ。

「でも、何だかんだ言ってついてきてくれる樹の人の良さも変わってないと思うよ?」
「はは、お褒めに預かり大変光栄でございます」

樹も呼吸を整えつつ歩幅を私に合わせて歩き始めた。こういうことがさりげなくできるのって、やっぱり私達女子からしたらポイントは高い。樹は正にその代表格、乙女のハートにドストライク物件なのだ。

…………だから、だろうか。さっきから、私と樹をちらちらと見つめる人々(八割がた女子)がいるのは。

うぅ、彼女達は単に樹のギャラリーなのか?
それとも、そのとなりに並んでいる親しげな女に罵声を浴びせに来た方か?

私は彼女達に向かって必死に弁解するような態度を取る。

どうか誤解しないで、私達はそういうのじゃありませんから!
そんな思いを込めて謙虚に控えめに……

「ん?そんな車道側歩いてると轢かれるぞ。こっち来な」

グイッ。樹が私の肩を抱くようにして内側へ移動させてくれた。

や、優しい……けど、今はちょっと余計なお世話かも。だって、だってあの人達は

「ひぃっ」

私は思わず小さく悲鳴をあげて樹にしがみついた。睨んでる、ギャラリー達が睨んでるぅぅ……!

「どうした、杏樹。さっきから挙動不審だぞー?」
「ご、ごめん、何でもないよ」

ここは見なかったふりをしよう、うん。