「神様、神様、お願いです」

 薄れ行く記憶の中で母の言葉が聞こえた。
 私を背負って夜道を駆け抜ける母。
 熱い頬に当たる風が冷たく、心地いい。

「この子の身体を丈夫にしてください」

 長い階段をのぼって。
 道なき道を駆け抜けて。
 母はそう、すがるように願う。

「もしも丈夫にしてくれたなら」

 母の声が震える。
 嗚呼、母さん泣かないで。
 私が他の子のように丈夫なら。
 強かったなら。元気なら。
 母さんを助けることだって出来たのに。


「この子をあなたの嫁として捧げましょう」


 うつらうつらとしながら、
 私はそんな母の声を聞いた。

「この子が生きてくれるなら、
 私は何だってする。何だって……」

 ねえ母さん。
 もういない母さん。
 私がもっと丈夫なら、強かったなら。
 元気なら、健康だったなら。

 母さんともっと一緒にいられたの?

「神様、神様、お願いです」