「…………、ね……おり」


「……ら……」


殆ど人が通らない西棟の裏から、男女の声がする。あいつがいるとしたらここらへんかと目星をつけて来てみたら、案の定。


「……はぁ」


仕方ない。この役回りに関しては随分前から慣れてしまった。


いつも通りやるか。深呼吸して気持ちを切り替える。


「っあー!伊織、こんなとこにいた!」


いかにも〝今偶然見つけました”って感じを出して言う。


「何なの?邪魔しないでよ」


くるくる巻かれた茶髪に短すぎるスカートと派手な見た目の女が、伊織の両手を掴んだままキッと睨みつけてきた。


そうだこの人、俺達が2年になって暫くしてから伊織に言い寄ってた先輩だっけ。


「ねぇ伊織、他の女に手出すのやめてって言ってるでしょ。お願いだから。ね?」


俺を無視して話を再開。っていっても、先輩が一方的にまくし立ててるだけで伊織に話す隙を与えない。


これじゃ、埒が明かない。溜め息をつきたくなる展開だけどぐっとこらえて表情に出さないようにする。


「先輩すみません!俺と伊織、職員室に行かなきゃいけないんです。だからその手、離してもらえません?」