「おつー」


部活用のバッグの中に急いでシューズやら何やらを詰め込んで教室へ向かう。


さっきまで部活で全力ダッシュしたにも関わらずまた走ることになるとは。でも早くしないと教室に鍵をかけられてしまう。


一気に階段を駆け上がり乱雑に教室のドアを開ける、と。


「――……香里」


夕日でオレンジに染まる教室の窓際で、もう枯れてしまったマーガレット、春子ちゃんを見つめていた。


「っうわ、裕貴?」


「てかお前、泣いてんの」


「違うよ。前髪が目に入っちゃっただけ。今度短くしなきゃ」


香里の態度ですぐ嘘だってことは分かった。そして傍まで駆け寄ったとき、あることに気づいた。


永瀬の甘いバニラみたいな匂いが、しない。……あれ、待てよ。それって、今日だけのことだったか?


よくよく思い返してみれば、前にすれ違ったときもその匂いはしなかったはず。


「永瀬と、何かあった?」


「……伊織君は関係ないよ」


「ある。それくらい分かってっから」


俺にいくら言い訳を並べても無駄だと悟ったのか、口をつぐむ。


「伊織に何かされたのか?」


「そうじゃなくて」