伊織君の、もっとと縋るような視線も今は自分だけに向けられているのだと思うと、優越感に浸れる。


ちっぽけで安っぽいと言われてしまえば、それまでだけど。


自分にとっては何にも代えがたい時間で。


お互いの熱を共有して、刹那の快楽に溺れる。


……分かってるんだ、伊織君は誘われたら他の女の子達ともこういうことをしてるって。私は所詮、そのなかの1人。


陳腐で拙い感情だと人は思うかもしれない。でも、それでも。


伊織君とちゃんと繋がりがあるって実感できるのは、こういうとき、だけだから。私にとっては幸せなんだ。


「森野さん?」


どうしたの、と首をかしげる。熱っぽい顔、雰囲気のままで。


「セミが鳴いてるなーって思っただけ、なんでもないよ」


「そっか」


笑顔を取り繕ってもう一度瞼を閉じた。