「伊織君、春子ちゃん見るために私の席の近くにくるからそのときに移ったんだよ」
香里がすぐそばにあるマーガレットに視線を滑らせた。白の花びらが夕日でうっすら橙色に染まってる。
「その程度じゃ移らないだろ」
香里と永瀬の距離は、ゼロだったんじゃないのか。嘘であってほしいけど。
「……裕貴、それ以上この話続けるんなら、勉強教えないよ?」
有無を言わせない表情と力のこもった声に、ここらへんでやめておかないと本気でケンカになりそうだと思い素直に謝る。
「分かった、ごめん。勉強の続きしよう」
「もー。じゃあ問4から再開するね」
「はーいお願いしますセンセー」
香里に再びプリントの問題解説をしてもらう。
それからというものお互い永瀬のことは一切話題に出さず、休憩を挟みながら勉強した。
時々鼻腔を掠める甘ったるい香りを、気にしないようにしながら。



