友達から何を頼まれても、誰もが断りそうなことをお願いされたとしても。


嫌な顔ひとつしないで『いいよ』と綺麗な唇で肯定の言葉を紡ぐ。


大抵のことはそうだ。


本当は嫌だと思ってるなら断った方がいいと言っても、伊織君は『大丈夫、平気』と口にする。


その理由を尋ねると『悲しい顔をさせたくないし、それで喜んでくれるならいいんだ』と答えていたっけ。


たとえちょっとした頼み事だったとしても、そういう表情をして欲しくないらしい。


今も『屋上に行こう』この誘いがどういう意味かも分かってるはずなのに、断らない。


「森野さん、行かないの?」


鞄を少しばかり華奢な肩にかけて立ち上がった伊織君に、不思議そうな顔で覗き込まれる。猫目で蜂蜜色の瞳が、すぐそばに。


「ううん。行こうか」


私達以外誰もいない教室に、乾いた声が響いた。




――――――本来立ち入り禁止の屋上に行ってすることは、とてもじゃないけど他人に自慢できるものじゃない。


友達にも絶対言えない。秘密。