「森野さん、お待たせ」


ちょうど消し終わったところで、伊織君がワイシャツをパタパタしながら教室に入ってくる。


「ううん大丈夫だよ」


「友達の頼み事手伝ってたら遅れた」


「伊織君らしいね。お疲れ様」


「黒板と向かい合ってどうしたの?」


「これは、ちょっと……落書きしてて」


「森野さんでもそういうことするんだな」


意外、と目を見開く。私も本当は落書きするつもりじゃなかったんだよ。


「するよ、たまにね。うさぎとか猫とか書いてみたんだけど下手で消しちゃった」


口では誤魔化しておく。何を書いていたか、なんて言えるわけない。


「へぇ。その絵、また今度見せて」


「見せられないなぁ。伊織君の絵の方が見たい」


「ダーメ。ほら、屋上行こ」


「うん」


教壇を離れて鞄を持ち、廊下に出て屋上を目指す。トントントン、階段を上がっていたら後ろから声をかけられた。


「永瀬君!」


その声に2人で振り向くと、同学年の女の子が1人立っていた。これは、もしかしなくても。