まさかこんな風に会話できるなんて思わなかったから。


「春子ちゃん、森野さんに感謝しろよ」


言いつつちょんちょん指先で白い花びらに触れる。そのちょっとした仕草ですら様になるからすごい。


「たまには伊織君も水やりやってみようよ」


「やめておく。春子ちゃんが可哀想」


肩を竦めて、ゆるく首を振る。


そうかな、春子ちゃんも伊織君みたいな格好いい男の子に水やりされた方が喜ぶかもしれないよ。


放課後、ゆったりとした空気が流れるこの時間を密かに楽しんでいると。


「伊織~?」


伊織君とは違う種類の甘ったるい声がした。振り向くと他のクラスの女の子が教室の扉に寄りかかっていて。


「今日はうちに来るって約束でしょ?」


「分かってる。今行く」


名残惜しそうな様子もなくパッと先ほどまで眺めていた春子ちゃんから視線を外して、彼女の方へと歩いていく。


待って、あと少しだけ。行かないで。


その言葉を口にすることは出来ずに舌の上で転がして終わる。手を伸ばしたくても、伸ばせない。


「じゃあね、森野さん」