「森野さんが笑った顔が見たい、傍にいたい。そう思うようになってたのに、気づかないふりをしたのは多分……」


遠くの方で夕日が沈み、藍色が世界をのみ込んでいく。


「大切なものが突然消えるのが……怖かったから」


自分にとって守りたい、大切なものがなくなってしまう虚しさは途方もない。


「その感覚を分かってても、俺は森野さんを離したくない。……亜紀を、裏切ることになっても」


あの時のように、いつのまにか2人で泣いていた。とめどなく溢れる涙が頬を伝う。


バカだね、なんて言って涙で歪んだ世界をシャットダウンして。


「今まで森野さんを何度も傷つけてきたし、泣かせた。……今も」


「伊織君も泣いてる」


綺麗な涙を指先で拭う。


「でも、それでも俺は」


どこからか打ち上げ花火があがり、屋上もその光で照らされる。伊織君の表情をはっきり見ることができた。