「伊織君、私は、どうすればいいのかな」
伊織君の止まった時間を動かしたい、救ってあげたい、ありったけの想いを消せるなら消してしまいたい。
何が正しいのか、どの選択肢を選ぶべきなのか。
もう、分からないよ。
「伊織君、私っ―――」
言いかけて、体があたたかいものに包まれた。ふわりと香るバニラに、喉の奥が熱くなる。
「っ……おり、君」
「森野さん。俺も、森野さんのこと気づいたら目で追ってて、さっき男に絡まれてるの見たとき嫉妬した」
嫉妬。伊織君には似つかわしくない言葉。
校庭からたくさんの笑い声や歓声が反響して聞こえてくる。
締めくくりの打ち上げ花火まで、あと僅かだ。今私達が屋上にいることは、誰も知らない。
「俺、これからもずっと亜紀だけを好きでいるんだと思ってた。そうじゃなきゃいけないんだって。でも、頭に浮かぶのは森野さんばっかり」
眉を下げて困ったように笑う。私を抱きしめる腕に、力がこもる。



