さっきの黒い感情がまだ胸の隅に残っていて、気持ち悪い。

俺は、森野さんが知らない相手に囲まれて困ってるから助けたんじゃないのか?


放っておいたらエスカレートしそうだったから連れ出したんだろ?


正当な理由を頭の中でいくら並べてもしっくりこない。


バンッ!!雑に屋上のドアを開ければ、秋の風に全身が包まれる。


「意味わかんない」


女の子が男に囲まれてるから嫉妬した、って。そんなの、まるで。


――――違う、違う。


ガシャン、力任せに握ったフェンスが指に食い込む。


「違う」


頭に浮かぶ森野さんの笑い声、泣いた顔、言葉をかき消そうとしても消えてくれない。おかしいだろ。


『伊織っ』


亜紀が俺を呼ぶときの笑顔がちらつく。こっちだよ、と呼んでる。


まるで、俺がこの感情の正体に気づくのを引きとめてるみたいな。


『伊織、愛してる』