「はい、母がいます」


「そう。担任の先生に伝えて電話してもらうからここで待っていてちょうだい」


先生が保健室を出ていって、しん……と静まり返る。


「ほんと、よかった」


「伊織君が心配性なんだよ」


「何かあってからじゃ遅い」


何かあってからじゃ遅い、それはお姉さんのことが関係しているんだろうか。


だからケガに敏感に反応して保健室に行こうって言ったのかもしれない。


伊織君はしゃがんで処置してもらった右足に手を添える。その手つきがまるで壊れ物を扱うかのように優しくて、困ってしまう。


伊織君の行動の根本にはお姉さんの存在があって、そのことは揺るぎない。


分かっていたのに。


そのことを再確認させられたみたいで、胸が苦しくなった。