そしてピタリ、と伊織君の動きが止まる。ガラガラと横開きの扉を開けて『すみません』と中に入る。
「あなた達、どうしたの?」
「森野さ……、この子が足をケガしたみたいで」
「ケガ?そこの椅子に座りなさい」
伊織君が椅子の傍にゆっくり下ろしてくれる。
「ケガって、どこを?何をしてそうなったのかしら」
「文化祭の準備をしてる最中に、足を滑らせて机から落ちそうになった子を変な体勢で支えたせいで右足首が痛くて……」
「右足ね」
先生が足を確かめている間、伊織君はどこか不安そうな顔をしていて。
「そうねぇ、捻っちゃったみたいだけど程度は軽いから安静にしていれば大丈夫よ。ただし今日の作業は禁止。もう帰りなさいね」
「よかったね、森野さん」
頬を緩めて安堵のため息を吐く。
足の状態よりも、伊織君の切羽詰まった雰囲気がどこかへ消えたことの方に安心する。
「その足で歩いて帰るのはよくないから、ご両親にお迎えにきてもらいなさい。どちらかこの時間家にいる?」