2人だけで何を話せばいいんだって不安だったけど、喋ってみると案外普通に会話できて肩の力が抜ける。
「白と黒、あと赤も足りないって言ってたよな」
「そうそう。白と黒は多めに買った方がいいよね。皆使うし……ここを右に曲がれば着くよ」
「俺、こっち方面あんま来たことない」
「駅とは逆方向だから。来たことある人の方が少ないんじゃない」
「ふーん」
見慣れない景色で面白いのか、きょろきょろと辺りを見回す。
横顔のラインが作り物みたいに綺麗で、つい魅入っていしまう。
「どうしたの、森野さん」
「……っえと、ほら、あそこが画材屋さん」
右斜め前を指さして、伊織君じゃなくて画材屋さんを見てたんだと誤魔化す。
「本当だ。昔ながらのって感じ」
「20年前からあるらしいよ。安いし何でも揃うから重宝されてるんだって」
伊織君の意識を画材屋さんに向けるために、先輩から聞いた話を引っ張り出す。
伊織君の横顔に見惚れてました、なんて絶対言えない。



