「ちょっとやめてよー」
「いいじゃん、はい」
何やら黒板の前で数人の女の子がひそひそ声で話しながらもはしゃいでいたから気になって見てみる。
「でー、こうして」
「あははっ」
黒板にはお遊びで女の子のうちの1人の名前と付き合っているであろう彼氏の名前を書いて、それをハートで囲っていた。
……その場所は、私が伊織君への気持ちを書こうとして消したところだった。
私がそんな落書きをしてたなんて、誰も知らない。
頭の中であのときの映像が再生される。断片的に知ることができた、伊織君の秘密。お姉さんのこと。
伊織君に自分の想いに応えてもらおうとすることは、私は、お姉さんを裏切ることに、なるんだろうか。
「うわー見て香里!雨降ってきた」
「午後から降るって予報だったからね」
「えー傘持ってきてない」
「傘持ってるよ。一緒に帰ろう」
「やった!」
窓にはポツリポツリと雨粒がついて、次第に強くなる雨の音。
空が、泣いてるみたいだった。