胸のあたりのYシャツをギュッと押さえて、下を向く。夕日で綺麗な色に染まる髪が顔を隠してしまって、表情がよく見えない。
「伊織のなかでその子の存在が大きかったってことだと思う」
苦しくなるくらいには、女の子のことが自分じゃ気づかないうちに特別になってた。
もしかしたら初めて亜紀の話をしたからかもしれないけど、それだけじゃない気がする。
「でも、こんな気持ちになるっておかしいよな」
伊織はふっと顔を上げて、枯れた花を手放した。軽いそれは風に乗り、いとも簡単に遠くへ飛んでいく。
「俺が好きなのは……愛してるのは、亜紀だけなのに」
その言葉を聞いて、泣きたくなった。
なあ、亜紀。
俺、亜紀が……憎い。伊織のなかで永遠になった亜紀が、憎いよ。
伊織のなかで亜紀との約束は絶対で、愛という感情を向けるのも亜紀だけ。
けど、もう伊織に愛を与えてくれた亜紀はいないんだ。
伊織にとって亜紀が唯一愛を捧げる存在であり、それは揺らぐことはないと伊織自身思ってる。
でもそれじゃ、いつまで経っても伊織は救われない。



