「もったいないな。綺麗に咲いてるのに」


伊織はほんの少し指先で白い花に触れてから、すっと立ち上がって『帰ろ』と背を向けた。


教室を出たあともたまに保存した画像を見て、嬉しそうな顔をする。


伊織が花に興味を持つなんて珍しい。というか何かに興味を持つこと自体あまりないからびっくりだ。


その花が綺麗だから興味を抱いているのか、それとも例の女の子が大切に育てている花だから興味があるのか。


その答えは分からないけど、伊織の感情を動かしたことは確かだ。


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この時期になると、亜紀を不意に思い出すことが多くなる。


夏と秋の境目の空気感が好きだと笑っていたな、とか思いつつ日々を過ごしていたら。


ある日を境に、伊織はぱたりと女遊びをやめた。始めはたまたまかと思っていたけど、一時的なものじゃないみたいで。


前々からやめさせたいと思っていた俺にとってはいいことなはずなのに、どうにも引っかかる。