「な、に言ってんの」


「もしもの話よ。類にしか頼めないから。私の大切な伊織を、よろしく」


「……、分かってる」


「約束よ」


この言葉を交わしてから数か月後、俺達の受験が終わって卒業式を迎えたあと。


亜紀は病状が急変して植物状態になり、生きていると言っていいのかどうか分からない姿になってしまった。


伊織は最後まで反対したけど、このままじゃ亜紀が可哀想だと呼吸器を外したらしい。


亜紀は伊織を残して、空へ還っていった。


ずっと自分の部屋に引きこもってる伊織が心配で様子を見にいったときのあの泣きじゃくった顔は、今でも鮮明に覚えてる。


伊織はすでに入学が決まっていた高校に行かないとまで言いだすから、高校に連れていくのは大変だったな。


でもそれは、当然だろう。


伊織にとったら綺麗に咲いた桜も、新しい校舎も仲間も全部、この頃は灰色に見えていたかもしれない。


亜紀がいない日々。


自分の愛する人がいない毎日を過ごすなんて。