そうじゃなくても伊織は亜紀を優先しただろうけど。


俺もたまに亜紀に会って話したけど、話し方も柔らかい笑い方も事故にあう前と変わらなかった。


伊織も徐々に学校で笑うようになったし、飯も食べてもとの体重に戻った。


少しずつ色んなことが上向きになりつつあるなか、俺と伊織は中3になり亜紀は学校に通えない分高卒認定試験のため毎日勉強していた。


冬が近づいてきた時期、数週間ぶりに亜紀のいる病院に行って飲み物を買ってくるという伊織を待つ間2人で話をする。


「亜紀、調子いいみたいだな」


「ええ。特に最近はね」


「それならよかった」


「類、いつも伊織を気にかけてくれてありがとう。あの子がちゃんと学校に行ってるのは類のおかげよ」


「伊織と亜紀の力になれるなら何だってする」


「ふふ、頼もしいわ」


亜紀はふいに夕焼けに染まる窓の外に視線を滑らせ、悲しげな顔をした。その表情に胸騒ぎがする。


「……もし、もしね。私がいなくなっても伊織のこと、お願いね」