「昨日目が覚めたけど、色々やらなきゃいけないことがあるからまだ入院してる」
「その事故って」
「部活が終わったあと、画材を売ってる店に立ち寄ってその帰りに……バイクにはねられた、らしい。赤信号と青信号を間違えたんだってさ」
伊織が何の感情もこもってない声で、言葉を紡ぐ。心臓がキリキリ痛い。
伊織にとって亜紀は大切な家族であり、恋人だ。
その亜紀が事故にあって今後の生活がどうなるか分からない状況って、そんな、どうやって耐えろと言うんだ。
「…………俺が」
下を向いたまま、小さく口を開いた。
「俺が守るって、決めてたのに」
「…………っ」
知ってる。昔から何度も聞いた言葉だ。亜紀は俺が守るんだって、いつも言ってたよな。
「これからもずっと守るって……なのに、結局守れなかった」
虚ろな瞳。伊織は泣いてないのに、泣いてるみたいだった。悲哀で塗りたくられた表情に、胸が締めつけられる。
「伊織のせいじゃない」
思わず立ち上がって伊織を抱きしめる。
「伊織は悪くないって」



