「…………」
「類?」
「なあ、伊織」
「ん?早く教室入らないと先生来るよ」
「―――伊織が女子からの告白を断る理由って、もしかして」
伊織の目が見開かれる。
俺が気まぐれで聞いてるんじゃなく確信をもって言葉にしたと分かったのか、ひっそりと声を潜めてこう言った。
「俺には、大切な人がいるからね」
それだけ聞けば、十分だった。全部、理解できた。
伊織が守りたい人は、ただ1人。年上の姉の、亜紀。
「……亜紀も、伊織のことを」
「うん」
艶やかに笑い頷いて、伊織は教室に入っていった。伊織と亜紀は姉弟だけど愛しあっている。許されない恋。
さっきの2人の姿が脳内で再生される。あの世界は、きっと誰にも壊せない、踏み込めない。
あんなに幸せな2人を見たら、俺が取るべき選択は1つ。
2人の幸せな世界を見守ることだ。親友として。
―――その後も伊織は女子からの告白を断り続け、亜紀を大切な存在として扱っていた。



