「伊織」
「何?類。サッカーやりに行かないの?校庭で先にあいつら待ってるってさ」
「……俺、今日は止めておく」
「何で?類サッカー得意じゃん」
サッカーボールを両手で抱えてきょとん、と首を傾げる。
「でも俺、皆とハイタッチしたり声かけたりとか、そういうの上手く出来ないし」
サッカーが出来る出来ないじゃなくて、別の問題。
皆と数回サッカーしてきたけど、やっぱり伊織みたいにナイス!って声かけたりはっきり意見言ったりできてない。
皆も多分そう思ってる。でも伊織がいるから言わないだけだ、きっと。
「類は気にしすぎ!考えるほど気になって出来なくなるんだよ。頑張ろうって思うんじゃなくて、こう、イケるってときにどんまいとかナイスって言えばいいんだって」
「……俺に、出来るかな」
「出来る!類なら大丈夫だって」
「じゃあ、やってみる」
「決まり!早く行こ」
伊織に右手を握られて、手を繋いだまま校庭に向かって走る。伊織はいつも優しい。
俺の手を引っ張っていってくれる。その手の温かさが、嬉しかった。



