伊織君の隣に腰をおろし、別のお菓子に手をつけている。でも伊織君は何も言わない。


自分の好きな食べ物が減っていくのは不満だけど、それよりも柚月君が行ってしまう方が嫌なんだね、きっと。


伊織君は庇護欲を煽るのも得意だ。


放っておけないと誰でも思ってしまうような危うさがある。


私も、同じ。


「はー食った!よし、そろそろ行くわ。授業頑張ろうな。寝るなよ」


「寝ない。また放課後」


「おう!」


本鈴がなる前に、柚月君はサッと席を立ち自分のクラスへ帰っていった。


そして次の授業が終わると今度は別の女の子が話しかけて、そのまた次は男子が周りに集まる。


伊織君はいつも誰かに囲まれていて。


それはまるで、蝶を誘う甘い蜜のよう。


こうし見ていると、嫌でも現実を突きつけられる。


屋上や放課後の教室で2人でいるときは確かに私だけを瞳に映してくれて、幸せに浸っていられる。


でもその一時の夢の時間が終われば、元通り。ただのクラスメイト、伊織君に好意を寄せる女の子のなかの1人。


それだけ。