そんなことを思いながら走ること約一分。

行きも切れ切れになった私達が立っていたのは第二音楽室。扉の前には白い画用紙が貼られており、無造作な字で落第音楽部と書いてあった。雰囲気からしてあの金髪の人が書いたように見える。

「灯蛇君、これ、湖谷さんて人が書いたの?」

「うん、そうだよ。そういえば満留ちゃん、志弥くんに勧誘されたことがあったんだっけ。結局あの人の言葉、本当になっちゃったねぇ」 

「そうだね。吹奏楽部自体はとっても素敵な部活なんだけど、私はちょっとついていけなかったみたい」

軽くはにかみながら言う私に、灯蛇君はうんうんと頷いてくれた。

「分かる、分かるよそれ。満留ちゃんにはこの部がぴったりかもしれない。そういう人たち多いから、此処」

「そうなの?」

「うん。一旦吹奏楽部に入ったけど、辞めちゃってこっちに来た先輩も何人かいるよ」

意外だった。私の他には誰も退部した人を見なかったから、自分がおかしいと思っていたのに……。

まだ見ぬ先輩に仲間意識が湧いてきた。うん、私、何かやっていけそう。

先輩達の楽しそうな様子を想像して、私も灯蛇君のようにうんうんと頷く。

そんな私を横目に灯蛇君は部室の扉をノックした。 

「誰か居ますかぁ?入部希望の人が来てますよぉ」 

ガラッ。
控えめな音と共に扉が開き、中から前髪の長い生徒が顔を覗かせた。その容姿を見て、私は思わず息を飲む。

この人、すごく美人だ。

「満留ちゃん。こちら、2年生でサックス担当の五十嵐芙蓉くん。芙蓉くん、入部希望の桜庭満留ちゃんだよー、ボクと同じクラスの!」

「よろしくお願いします、桜庭満留と言いま……」

ん?
今、灯蛇君この人のこと芙蓉『くん』って言った!?
まさか、この人……、 

「あ、えっと、五十嵐、芙蓉、といいます。性別は男です。よく、ま、間違えられるもので……」

途切れ途切れにそう言うと、五十嵐先輩は恥ずかしそうに顔を俯かせた。

その表情は、女の私から見ても可愛いと思えるものだった。そして、今まで自然にしてたから気づかなかったけれど、灯蛇君もそのような類いに入るということを理解する。

漫画の中の話かと思ってた……こんなに可愛い男の人が世の中に居るなんて。しかも、二人も!

私はちょっと別の意味で感激していた。