城川くんの後ろを歩いてついた場所は旧校舎の特別教室。
ここは普段あまり使われない教室だからほとんど人がいない。
「どうぞ入って?」
や、やっぱりこの笑顔は驚異的だ。
女子があんなに群がるの当たり前だよ。
「あ、ありがとうございます」
「そこのソファに座っていいよ」
そう言われ遠慮がちに座る。
「あ、あの用事って…」
「ねぇあんたさ」
なんですか、そう言おうとしたら冷たい表情で呼ばれた。
「え?」
この人…だれ…?
「俺を支えるってがちで言ってんの?」
こ、こんな城川くん初めて見た。
いつも笑顔でみんなから人気でモテモテな王子様なのに。
今ではその面影すらない。
「答えろよ」
城川くんがあたしに少しずつ近づいてくる。
そして下に向いていたあたしの顔をくいっと上げてきた。
その距離10センチ。
この距離にものすごくドキドキしてしまう。
「な、なんですか」
「お前、俺のこと好きなわけ?」
「へ?」
な、なんで?!
この人テレパシー使えるの?!
でもあたしの好きな城川くんはこんなに強引じゃない。
「どうなんだよ」
腕を掴まれて押さえつけられた。
こ、こんなのあたしが好きになった城川くんじゃない。
「へぇ優しい俺が好きなんだ」
「え?」
や、優しい俺?
城川くんあたしの心読んだ!?
「さっきから声に出てんだよ」
「え、?うそ!」
「嘘じゃなかったら言わねぇよ」
あ、あたし恥ずかしい…。
「そ、それで用事ってなんですか!」
「てかさっきから思ってたんだけどなんで敬語なわけ?」
「あ、」
た、たしかにそうだ。
久々に会えて嬉しくてテンパっちゃったんだ。
「そ、そんなことどうでもいいよ!」
用事はなんなのよ!
「なぁ」
さっきの距離からまた近くなる。
かっこよすぎて目を見てられない。
「俺と付き合え」
「え?」
な、なに言ってるの?
付き合うも何も…
「あたしは中学の頃から城川くんが好きなの、だろ?」
「なっ…」
ず、図星だ…。
「つか選挙の時、俺を支えるとか大胆なこと言ってただろ?」
「い、言ったけどそういう意味じゃな…」
「中学の頃、俺が引っ越す前に告白しようとしてただろ」
「え…」
「今、俺の本性見てびびってんだろ」
「そりゃ…」
中学の頃と全然違うんだもん。
あたしの初恋なんなんだろう…。
「好きなら付き合えるだろ?」
「あ、あたしの好きな城川くんは誰にでも優しいの。それに嫉妬してる自分が大嫌いでどうしようもない時に全校の前で言ってたんだ」
あの時の言葉片時も忘れたことは無い。
「自分を嫌いになったら大切な人や物も嫌いになってしまうよ、って言ったの」
そう、あたしの初恋はこの日から始まった。