「同じ学年だったらとか思ったりして、こうしてたまに先輩と話すのが凄く楽しみで必死だったけど、先輩は知らないでしょう」



 まさかそんな。

 学年が違うから、接点はない。部活だってそう。なのに、そういえば宮元とはよく話していたかもしれない。後輩として。
 馴れ馴れしくて、それでいて話しかけてくれることは嬉しくて。
 宮元が、私を?



「卒業待って下さい、だなんて言いたくもなりますよ。でもそんなの仕方ない。だから待ってだなんて言わないって決めて」
「………、宮元」



 ほどよく日焼けした顔。
 宮元は放心状態の私をよそに立ち上がった。



「放心状態ですよ、先輩」
「だ、だって」



 ―――急に好きだなんていうから。
 心臓がうるさい中、宮元はいつものように笑う。こっちのどきどきを知らない、というような顔で。
 


「俺、かっこいい男になりますから」
「…どういう?」
「かっこよくなって、先輩をぎゃふんと言わせる予定ですから、先輩は待ってくれなくていいです」
「ちょ!意味わかんないんだけど!」



 ししし、と悪戯をしたあとの子供のような顔をしていた。宮元の顔が、今まで年下として接してきた何かが、崩れそうな気がした。

 ――――待たないで。

 そう言われたら、逆に待ちたくなってしまうじゃないか。いい逃げのように扉の奥へと消えた宮元を、私は赤い顔で見送った。