未来郵便 〜15年越しのラブレター〜

体育祭は赤組と白組、どちらが優勝したのかわからぬまま終わった。

頭も心も空っぽで保健室から出た後の記憶がほぼない。

覚えているのは、花梨が今にも泣きそうな顔をして私を抱き締めたこと。

その腕の中が凄く凄く暖かかったことだけだ。




心が踊り、震え、揺れ動くこともないまま時間だけが過ぎていく。

一日一日が長かった。
私を動かすエネルギーのほとんどが恋の力だったんだと思い知らされた。

エネルギーがないと何も出来ない。
笑うことも泣くことも、喜ぶことも怒ることも。


そんな何もない日々が二週間も続き、三年生が二泊三日の修学旅行に旅立った。

ほんの少し静かになった校内。
三年生の教室がある一階は主がいなくなって寂しさが漂い、昇降口や昼休みの校庭はどこか物足りなさを感じる。




「なに黄昏てんの?」


部活の休憩中、オレンジ色に染まる空をボーッと見上げていると細井が隣りに座って言った。


「別に」


体育祭の後から細井とは少し気まずい。

それまでは馬鹿げた言い合いばかりしてたのに、最近はまともに会話してなかった。


告白されて断っただけじゃなく、キスされそうになって。
未遂だったけど、それで気まずい空気にならないわけない。

あの時は葉山が現れてそれどころじゃなかったけど、後々考えると大変なことをされそうになってたんだ。


「怒ってる?」

「怒ってない」

「怒ってんじゃん」

「怒ってないって」

「やっぱり怒ってる」

「だから怒ってないってば‼︎」

「ごめん」

「しつこいな!って……え、ごめん?」


テンポ良く返してくる細井のしつこさにイラっとして語尾を荒げると、突然聞こえた思いも寄らない謝罪の言葉。

驚いて咄嗟に振り向くと、細井はいつになく神妙な面持ちで私を見据えていた。