「綾音…今なら誰もいない。確認しに行くよ」


私はコクリと小さく頷く。

もう一度誰もいないことを確認すると、私達は植木の影から飛び出して葉山の下駄箱に急いだ。

手紙を入れた方の葉山の靴を取り出して中を見る。


「……ない」


ない、ない……何処にもない。

さっき確かに入れた葉山への手紙が無くなってる。


いくら逆さにしても、反対の靴を同じようにしてみても、私の手紙はなかった。


「やっぱり……さっき渡先輩が破いた紙は綾音が書いた手紙だったんだ」


見て、と花梨が小さい紙切れを手のひらに乗せて私に見せる。

それは私が葉山との文通で使うために買ったお気に入りのメモ帳の端切れで、先輩が私の手紙を破った決定的な証拠だった。


先輩のことを信じたい、信じようとする気持ちがガラガラっと崩れていった瞬間だった。


「綾音、どうする?」


花梨の問いに、私は何も答えられなかった。

今は渡先輩と話す気にも、葉山に全てを打ち明ける気にもなれない。


私は校門に向かう渡先輩の後ろ姿をただただ見つめていた。