数分もしないうちに部活を終え下校していく生徒が増え始める。

葉山の下駄箱の近くを誰かが通る度に息を殺して一人一人の動向を見守っていた、その時。


「あ、綾音!あれ……」


女子生徒が葉山の下駄箱の前に立つと、辺りを警戒してるようにキョロキョロと見回し始めた。


「嘘でしょ…?」

「まだわかんないよ。だって先輩は確か葉山と同じクラスだし。自分の下駄箱が近くにあるのかも」

「そう、だよね…」


私ったら、あそこに立っただけで疑うなんて本当余裕無さすぎ。

あそこには葉山の下駄箱だけがあるんじゃないんだから。

もっと冷静に。
冷静にならないと見えるものも見えなくなってしまう。


ざわざわする胸を落ち着かせようと、ふぅー、と深く息を吐く。

だけど、それはすぐに私達の声にならない叫びに変わった。


「っっ‼︎……み、見た?」


今目の前で起きた事があまりにもショック過ぎて言葉にならない。

心臓が一瞬止まるぐらいの衝撃だった。


「違う……見間違いだって。た、多分あそこは葉山の下駄箱の隣りなんだよ。それでっ……」

「でも普通は下駄箱に手紙なんて滅多に入ってるもんじゃないよ……?」

「それはっ……」


こんな事になっても先輩が犯人だと認めたくなくて色々言ってみるけど、これ以上は無理だ。

花梨の言うことが正論過ぎて言葉を失った。


嘘だよね……
誰かドッキリだよって言ってよ。
冗談なのに本気にすんなって笑ってよ。


信じたくない。


私の憧れで、大好きな先輩が……

誰からも慕われるバスケ部の部長で、私の目標だった渡先輩が……

まさか、手紙を抜き取っていた犯人だったなんて。


渡先輩は葉山の下駄箱から白い物を取り出して広げると、目を通した後にそれをビリビリっと小さく小さく破いた。

そして破いた手紙をスカートのポケットに入れて、何事もなかったように昇降口を後にした。


頭の中はぐちゃぐちゃ。

なんで?どうして?
そんな言葉ばかりが浮かんでくる。