「おい綾音!さっきから何処見てんだよ。集中しろ、集中」

「だから名前で呼ばないでよ!」


私目掛けて思いっきり投げられたボールを胸元でうまくキャッチすると、それをそのまま相手に憎しみ込めて投げ返した。

だけど、私も所詮女子。
渾身の一球は簡単に取られて、今度は足下に当てられてしまった。


「むかつくぅーっ!」

「ふ。まだまだだな」


悔しがる私を鼻で笑うコイツは、同じクラスでバスケ部の細井駿平。

入学早々に隣りの席になってから何かとちょっかい出してきて、勝手に呼び捨てしてくる嫌な奴。


今だってずっと集中してなかったわけじゃない。

一瞬、ちらっと別のところを見てただけなのにっ!



球技大会を3日後に控え、うちのクラスでは昼休みに練習をすることになった。

男女混合ドッヂボールのキャプテンは細井。

ちなみに、私を半強制的にドッヂボールにしたのもこの男だ。


「練習中に何処見てた?」

「アンタには関係ないでしょ」


ふん、とそっぽを向いて言うと、細井に目を向けずに外野に出る。

細井に答える義理はない!
何回聞かれたって絶対に言うもんか!


「あーあ、また喧嘩して。仲良しだねぇー」


初めから外野要員として外野にいた花梨が、ククッと肩を揺らして言った。


「どこ見てんの花梨‼︎全然仲良くないしっ!天敵だよ、天敵‼︎」


仲良く見えるなんて冗談じゃない!

喧嘩するほど仲が良いって言うけど、私達の間にはそんなの一切ないんだから。


「細井の言う通りじゃない。どうせ、葉山でも見てたんでしょ?」


ゔ…流石、花梨。全てお見通しか……


葉山は校庭の端にあるバスケコートで、友達といつものようにバスケして遊んでる。

私はその姿をほんの少しだけ……

素直に認めると、チラチラと何度も見てはその度に一人ニヤけていた。