未来郵便 〜15年越しのラブレター〜

その始まりは入学式の翌日、部活動見学の時だった。


バスケ部に入る気でいた私は、見学時間になるとすぐに体育館に向かった。

ミニバスとは全然違うレベルと活気にわくわくしながら、先輩達の練習する姿を食い入るように見ていた。


その中でも飛び抜けて上手いと思ったのは三年の渡部長。

身長は168センチある私よりも断然低い。
なのに、身長が高い選手と比べても全く引けを取らない。

高いジャンプでリバウンドを制し、低いドリブルで相手を翻弄し、正確なシュートで確実に得点を重ねていく。

部長のプレーを見ていると、久しぶりに心が踊った。

かつて私がミニバス見学の時に葉山のプレーを見て魅了されたみたいに。

早く先輩とバスケがしたい。

見学終了時、早速顧問に入部届を提出して体育館を出た。


一旦教室に戻り、鞄を持つ。
靴を履き替え校門に向かう途中、体育館のドアからボールが足下に転がってきた。


『綾音。悪い、取って』

『うん…』


葉山だ。
久しぶりに見る葉山のバスケ姿にドキッと胸が跳ねた。

ノースリーブの練習着から見える腕とカチカチに固そうなふくらはぎの筋肉。

首や額を流れる汗。

走った後の乱れた息遣いと声。


ア、アレ……?なんかおかしい。
葉山を直視出来ない。

葉山ってこんなにセクシーだったかな……
一度意識しちゃったから、もう気になって仕方がない。

目のやり場に困る。


『い、いくよ』


葉山から視線を外したまま、ボールを拾って葉山に投げる。

ミニバスよりも若干大きいボールは葉山の胸元に収まると、葉山は『サンキュ』と笑った。


『見学どうだった?』

『うん……楽しかったよ。もう入部届出した』

『そっか。明日から頑張れよ』

『…うん。頑張る』


やっぱり。私どうしちゃったんだろう。

上手く声が出てこない。言葉も続かない。
やけに緊張するし、ドキドキも半端ないし……

とにかく一杯一杯だ。


『綾音?どうかした?』


目を合わさない私を変に思ったのか、葉山は私に近付いてくる。


ダ、ダメダメダメダメ…っ‼︎
それ以上近付かないで!

今近くに来られたら、私本当におかしくなるっ……


『具合でも悪い?』

『大丈夫!何でもない!だから練習に戻って!ね⁉︎ね⁉︎』


私がいくら必死で言っても葉山は止まらない。


『顔赤いぞ?熱あるんじゃないか?』


そう言って、葉山は俯く私の顔を覗き込みながら額に手を当てた。


これ以上なく、ドキッと大きな音を立てた鼓動。

近いっ…近過ぎるよ!

目をギュッと瞑って見ないように意識しても、額に触れる葉山の大きな手の感触と温もり、葉山の呼吸に私の全神経が集中してしまう。


そして、私はとうとう限界に達してその場から走って逃げてしまったーー……