「見せて欲しいものがあるの」


腕の中で葉山を見上げる。

相変わらず整った顔してる。
くっきりとした喉仏も長い睫毛も好き。

好きすぎて、ヤバい。


「何?」

「手紙」


平野課長に耳打ちで教えてもらったこと。

それはずっと葉山が肌身離さずに大事に持ち歩いてる手紙のことだった。


『葉山はいつもノートを破って書いたような手紙を持ってる。大学時代にはすでに持ってたから、それより前から持ってたはずだ』


平野課長は大学時代、葉山が飲み会の会費を財布から出してる時に財布から落ちた紙を拾った。

二つ折りにしてあるだけの手紙。
何気なく開いて見てしまったらしい。

今は手帳に挟んである、という。


「なんで知って……」

「課長に教えてもらったの」

「あの人、やっぱ知ってたな。だから今回綾音にデマ吹き込んだんだ」


はぁ、とため息を吐く葉山。

私はよく意味がわからなくて首を傾げた。


「お節介焼きってこと」


つまり課長は葉山の手紙の相手が私だと思った。

同時に私の気持ちもカマかけて確信して、一芝居打ったというわけか。


「課長って何者?」

「只者じゃないってことだけは言える」


二人でクククッと肩を揺らして笑う。

ほんの少し見つめ合った後、葉山は手紙を手帳から出すとそれをどこか懐かしげに見つめながら言った。


「まさかこれを渡す時が来るとは思ってなかった」

「どうして?」

「これは綾音宛に書いたは書いたけど、送るつもりはなかったから。ダサいだろ?こんな未練タラタラな手紙」


平野課長から私宛の手紙があるっていうのは聞いていたけど、何て書いてあったかは教えてもらってない。

ただ、一言。

『葉山の気持ちが溢れた手紙だったよ』


それを聞いて、私は嬉しかった。

未練タラタラだなんて思わない。
会わなかった時も、私を想ってくれてたと思うだけで胸がほっこりする。


「でも、やっぱり手紙は相手にちゃんと届けて読んでもらわなきゃな」


そう言って葉山は手紙を私に差し出した。


聞いてた通り、ノートの切れ端で二つに折っただけの手紙。

私はそれを受け取ると、ゆっくりと開いた。