黒い影が此方を覗き込んでいる。
長い髪の毛を胸元まで垂らして、顔ははっきりと見えないが口元はきっと笑っているのだろう。声が嬉しそうだった。
「姫チャーン」
彼女はそう――彼等のお姫様。
名を結城姫香(ゆうき ひめか)と言う。
名の如くお姫様になる為に生まれてきたような人だ。
わたしをからかうだけからかっていた口元が、僅かに綻んでいるのが見える。ジョーさんのような人を人とも思わないような人にも大事な物というのはあるらしい。
「ユズ君がね、晩ご飯何がいいかって」
「ああ。うーん、俺は何でもいいよー。姫チャンが好きな物にして貰いなー」
彼等の会話を邪魔する事も叶わず立ち尽くしながら、舌打ちをしそうになった。
全く以て甘い空気だ。嫌になる。
「ホント?」
「姫チャンが良いなら俺は何でもいーのー」
「出た。ジョーってホント甘いよね。そんな優し過ぎて大丈夫?」
「ぷっ……」

