なりたがり



 スカートから伸びる膝の上に置いた拳をきつく握り締める。

 学校で虐められているという事は言えなかった。

 格好悪い。
 情けない。
 恥ずかしい。

 それ以上に、いつだって優し過ぎる彼には心を痛めて欲しくないからだ。


「雅、帰ろっか」


 頬に添えられていた手が下に降りていき、やがてわたしの手をそっと包み込む。ふ、と力の入っていた拳が緩んだ。


「―――うん、帰る」


 日和さんは出逢ったその時から不思議な人だ。

 人を安心させる才能がある。
 決して深い話をしている訳でも、饒舌な訳でもないのに、日和さんの声や一言一言には何かしらの威力があって、どうしようもなく落ち込んでいる時は元気が出るし、激しく苛立っている時は緩和剤になってくれる。

 その分自分自身を苦しめていやしないかと偶に不安になるが、だからこそもっと早く大人になりたいと願うのだ。


「お帰りなさい、雅ちゃん」

「愛梨さん、ただいま!」


 いつも笑顔で出迎えてくれる、母の為にも。